「赤ちゃんにおむつはいらない」というタイトルが気になって手にとってみた本ですが、読んでみたところ、タイトルに関するおむつの話以外でも、育児に関する考え方に関してとても参考になった素晴らしい本です。
タイトルに「赤ちゃんにおむつはいらない」と書いてあり、最初は「おむつが無くなれば経済的に助かる」という自分本位の考え方で読み始めた自分が、読み進めていくうちに恥ずかしくなるような、子どものことを考えた内容でした。
この「赤ちゃんにおむつはいらない 失われた育児技法を求めて」という本は「この方法を実践すればおむつが外れます!」とか「◯歳までには完全におむつを外しましょう!」とかいう本ではありません。本のタイトルからはそんな感じのイメージを受けますが、実際にはぜんぜん違って、とても内容の濃い子どもの育児全般にも関係してくるような内容の話です。
この本で説明している「おむつなし育児」とは、親子のコミュニケーション能力に頼って、子どもの排泄状況を把握し、子どもとのふれあいを増やし、豊かに育てることを薦めていることなのだと感じました。
この本は2006年度のトヨタ財団の助成でおこなった保育士、母子保健・育児関係者、民俗学者などをメンバーとする研究チームによって研究された内容をまとめた本です。
内容としては、「序章 失われた育児技法」では、現代の社会の風潮である、「おむつを無理やり外そうとすると、子どもの精神的負担になる」などの考え方などについての考察、「第1章 おむつは育児の必需品?」では、90歳などの戦前生まれの高齢者の方や、戦後生まれの方、などのおむつに関する記憶の聞き取り調査の結果、おむつはずしに関する婦人雑誌の戦前から戦後、平成までの記事の移り変わりを、「第2章 子どもたちの今」では、現在のおむつはずしの時期やインドネシアでのおむつ事情や都市での紙おむつの普及、「大3章 おむつなし育児の実践」ではおむつなし育児をしている「エミール保育園」の育児方法やモンテソーリ教育という教育方針の紹介などを、「第4章 快適! おむつなしクラブ」では、40組の親子によるおむつなし育児への挑戦の記録が掲載されていて、最後は「終章 知恵の伝承」として、まとめられています。
本書を読んでいて、素晴らしいと思ったり、なるほどと思ったところを抜粋して紹介していいきます。
・やり手水(やりちょうず)
昭和初期までの日本では、子どもがおしっこをしたくなったら、「やり手水」と言って赤ちゃんをトイレに連れて行って、ささげてあげるとおしっこをしたそうです。うんちも同じようにおまるに連れて行ってうんちをさせる。
月齢が低い赤ちゃんのうんちはやわらかく、おむつにすると、べったりとくっついてしまって形はわからないが、おまるでとると、すぅっと長いうんちをするそうです。
戦前の日本のお母さんたちもおむつを使っていましたが、紙おむつがなかったので、おむつだけに頼りきった生活をしていなかったそうです。
・育児と科学的根拠
現代社会では「科学的根拠があるのか」とか「原因の究明」とか「これをやればこのようにいいことがある」といった因果関係をもとにした考え方をするようになってしまっていて、育児に関してもそういった風潮があることの問題があげられていました。
まだまだ子どもも小さく、育児経験は少ないですが、やっぱり子どもと言っても人間だから「何ヶ月で首がすわる」とか成長には差があると思いますし、「こうすれば泣き止む」というものも必ずしも通用するものではないことがわかりました。
育児って知識も大切ですが、今まで培われてきた「知恵」や自分自身の「経験」が大切なことを気が付かせてもらい、夫婦で考えながら試行錯誤して失敗しながら学んでいくという方法を楽しむようにしました。
育児雑誌も「この夏はトイレトレーニング!今年取れないと来年夏までおむつは取れない」などの軽い脅迫めいた言葉で購入を促したりするので、専門書は買うかもしれないですが、育児雑誌は今後買うことはないと思います。
・本当に「子どものため」なのか?
最近は子どものおむつはずしの月齢が遅くなっていきているようで、2009年の産経新聞にはおむつ会社が従来の一番大きなおむつのサイズより5キロ対応体重の大きい25キロ用のおむつを売り出すという報道があったそうで、25キロとは小学校2年生の平均体重だそうです。
こうしたおむつが外れる時期が遅くなる原因に「子どもを好きなようにさせる」という考えがあり、「せっかく遊んでいるんだから、トイレに誘ったりせず、好きなように遊ばせた方がいいからおむつにしている」「無理してトイレのトレーニングをすると子どもに負担なので、自然にとれるまで好きなようにさせている」という声があるそうです。
しかし、一見子どものためになっているような考え方ですが、実は親が楽しようとしているという考えも見え隠れしているとも考えられなくもないです。
「子どものため」というのは親が都合良く使っている言葉であって、本当に子どものためなのかどうかもういちど考えた方が良いということに気が付きました。おむつが外れるのが遅ければ、それだけ排泄のコントロールができていないということになりますし、排泄のコントロールは大人になる必要な身体機能ですので、本当に子どものことを考えれば、トイレで排泄する、排泄のタイミングをコントロールするというのは早めに覚えた方が良いような気がします。
かわいい格好をさせるのも、結局は親たちが子どもを着飾って楽しむためで、子どもはファッションなど気にしないから快適な格好の方が良いでしょうし、昔の母親たちへの聞き取り調査で、昔の服はおしっこのときなどに脱がせやすかったけど、今の服は脱ぎにくいので、子ども自身がおしっこをしたくなっても、脱ぐのに間に合わないのではないかと言っていました。これも、子どものためではないのだと反省しました。
・日本の出産のシステム
日本の助産院は、自分の家のような環境で安全に行うお産の場所であり、医者がいなくても助産師はお産を取り扱う開業権があるという世界でも珍しいシステムなんだそうです。そして、助産院は医療行為ができないので、女性の産む力、赤ちゃんの生まれる力を最大限に生かそうという方向性を持っているそうです。
やや薄暗い、産婦さんが安心できるような静かな環境で、生まれてきた赤ちゃんはわあわあと泣かず、「ふぎゃ、ほぎゃ」というくらいで、あまり泣かないそうです。
明治開国後に日本に来た西洋人たちは日本の赤ちゃんがほとんど泣かず、機嫌が良く朗らかで聞き分けが良いことに驚いたという記録があるそうですが、これは、日本の安心する出産システムで生まれ、多くの人に囲まれて育てられたからで、このときの西洋ではすでに赤ちゃんを自分の都合に合わせてほおっておく子育てをしていたから驚いたのではないかと書かれていました。
ただ、この話を奥さんにしたら、病院での出産は感染症などを防ぎ、子どもの死亡率を減らすためには良いという功績もあったのではないかと言っていました。
・昔のおむつはずれの月齢
80、90代の4名の女性が育てた13人の子どもたちのケースで最もおむつはずれが早かったのが、生後9ヶ月か10ヶ月頃で、壁につかまりながら立ち上がって「しっこ」と子どもが教えてくれるようになったそうです。そしてトイレに連れて行くと、おしっこをしたのでその後はおむつを外してパンツをはかせたそうです。
おむつは大体1歳頃から2歳頃の間でほとんどの人がはずれ、だいたい夏におむつはずしをした家庭が多かったそうです。
おむつをはずすタイミングの決定に必要なのは、赤ちゃんがなんらかのしぐさや声でおしっこを知らせるようになっているかどうかで、知らせるようになったらおむつをはずして、こまめにトイレやトイレに準ずる場所に連れて行ったそうです。
・紙おむつの普及
インドネシアでは「カインポポ」というふんどしのような物を使う風習があるようですが、最近、都市部では紙おむつが普及していて、コマーシャルもすごく紙おむつを履くことがかっこ良い子育てのようなイメージもあるそうです。
紙おむつ会社の目指す未来は、どれだけおしっこを吸収できて、どれだけおむつを交換しなくて良いか、ということを目指していますが、果たしてそれが子どもの成長や体の機能の発達にとって良いことなのかどうか、考えさせられました。
・おむつなし育児からの10の発見
「おむつなしクラブ」というクラブでおむつなし育児(正確には子どもの排泄のタイミングを察知して、おまるやトイレに連れて行くが、完全におむつなしではなく、夜や外出など、時と場合によっておむつも使用するけど、なるべく早くおむつを取ろうという育児方針)をしたメンバーが気がついた10の発見です。
1.赤ちゃんはトイレやおまるで排泄できる
2.赤ちゃんは排泄のサインを出している
3.ホーローおまるはおむつなし育児の「頼りになる助っ人」
4.おむつなし育児は家事を楽にしてくれる
5.生後2ヶ月頃から排泄のリズムができてくる
6.発達段階で、赤ちゃんの排泄状況も大きく変化する
7.粗相をされるのは段々気にならなくなる
8.家族や周囲の理解とサポートはおむつなし育児に不可欠
9.「うんち・おしっこ」で幸せになれる
10.おむつなし育児で育児の自信がつく
という発見があったそうです。生まれて数ヶ月の子どもでもおまるにささげてあげるとおしっこやうんちをしたりして、実際にやってくれると楽しくなるそうです。また、子どもの排泄のサインに気がついてあげられたということの喜びや、子どもと意思が通じあったという喜びができ、最終的におむつなし育児を実践してよかったと思うようです。排泄のタイミングがわかるようになった人たちは、話すことのできない赤ちゃんとのコミュニケーションを放棄していたことに気がついたとも書いてありました。
ただ、「排泄はトイレやおまるで」という「結果」に固執しすぎてしまうと、親も赤ちゃんも追い詰められてしまい、結果もうまくいかなくなるそうで、「洗うおむつの量が一枚でも減ればラッキー」くらいの気持ちでやってみると、結果的にもうまくいくようです。
・まとめ
最初は「おむつなし」という言葉に釣られ「おむつが無くなれば家計が助かる」程度の認識しかなかった自分が、本書を読み終わる頃には、おむつを外すというまでの過程の間に、子どもとのコミュニケーションを取る方法を学び、子どもとの意思疎通を図るという大切なことがあるということに気が付きました。
正直、これを読むまではずっと紙おむつでいようと思っていましたが、この本を読んだら布おむつにしてみようと思うようになりました。布おむつにすればおむつが早く外れるわけではないですが、布おむつにすれば、子どものおむつ代のことを考えず、おむつを交換してあげられますし、排尿の感覚やおむつが濡れたときの気持ち悪い感覚なども感じさせられるとでしょう。さらに、おしっこが出るタイミングなど、紙おむつより気にすると思うので、子どもにより関心を持って子育てをするようになると思います。
現在1ヶ月ですが、もう少ししたら、この本でも薦めていた「ホーローおまる」を購入しておむつなし育児を楽しんでみようと思いました。
多少汚れても気にしないで、おむつのない生活を楽しみ、子どもとの言葉のない意思疎通を楽しむということを教えてくれた素晴らしい本でした。